この記事はツカサネット新聞に投稿したものである。
「ガチャポン」「ガチャガチャ」と呼ばれる玩具入りカプセルを男児(当時2歳10ヶ月)が誤飲し、重度障害を負った事故について、両親がカプセル製造元のバンダイナムコゲームスに対し損害賠償を求めた訴訟で7月3日に和解が成立した。
報道によると、裁判の経過は以下のとおりである。2002年8月、男児が自宅で直径40ミリメートルのプラスチック製球状カプセルを誤飲してのどに詰まらせ窒息状態となり、全身に麻痺が残り寝たきり状態になった。両親は製造物責任法(PL法)に基づき製造元に対して1億800万円の損害賠償を求める訴訟を提起した。鹿児島地裁は損害額を7954万円と認定し、両親が事故防止の注意義務を果たしていないとして製造元の責任を3割とし、約2626万円の支払いを認めた。双方が控訴し、2009年7月3日、福岡高裁で和解が成立した。和解金額は明らかになっていないが、両親側代理人弁護士は「判決後にカプセルの通気孔の数を増やすなど再発防止策を講じており、誠意ある対応をしてもらったので和解に応じた」と話している。
ここで、この事故・裁判に関するネット上の世論を紹介したい。もっとも、「世論」と言っても、私が調べたのはあくまでインターネット上で表明された一般人の意見である。おそらく、ネット環境が整っている程度に生活に余裕があり、ネットに自己の意見を書き込める程度に時間に余裕があり(子育てに忙殺されているわけではない)、PC操作が可能で(高齢者は少ないだろう)、社会問題に関心があり、ニュースを読んで何か言いたいと思っている(判決・和解に不満を持っている)といった属性の人が調査対象の中心であると思われるので、日本国民全体の世論とここで紹介する「ネット上の世論」は異なる可能性があるが、その点についてはご了承願いたい。
ネット上で表明された意見の大部分は、事故の全責任は両親にあるとし、このような訴訟を提起した両親に批判的だ。これが大体8割くらいを占めている。一部には、親がわざと子供ののどにカプセルを突っ込んで賠償金をせしめたという書き込みもあった。
製造元への批判は大きく二つに分かれる。一つは、子供向けの玩具に誤飲による窒息の危険があったことだ。これは批判というよりも、第一審判決・和解は妥当だというものである。大体1割くらいだ。
もう一つは、こんな不当な裁判を起こされたのに徹底的に闘わず和解に逃げたことへの批判だ。これでは、自分の不注意を棚に上げて企業や保育所に裁判を起こす「モンスターペアレント」を増長するというものである。
また、第一審判決が出た段階で、「世論調査.net」というサイトでこの判決についてのアンケートが実施された。
http://www.yoronchousa.net/result/4202
質問文(一部抜粋)
この判決について、以下の質問にお答えください。
(1)判決は妥当だと思いますか?不当だと思いますか?
(2)今回の事故でより大きな責任があるのはメーカーと保護者のどちらだと思いますか?
(3)ガシャポンカプセルの大きさを見直すべきだと思いますか?
(1)の質問に対し、「判決は妥当」と回答したのは10.37%(59人)、「判決は不当」は71.18%(405人)、「わからない・どちらとも言えない・その他」は11.78%(67人)だった。第一審は製造元の責任を一部認めたが、一般人の大部分は両親に全責任があると考えているようである。
製造元に責任は無く両親が悪いと主張する人の一部はこんにゃくゼリー規制にも言及している。何でも他人のせいにしようとし、規制を強めようとする風潮に批判的だ。
ただ、書き込みを見ていると、両親の責任を主張する人は、第一審は製造元に全責任があるとする判決を下したと思い込んでいる人も多いようだ。実際は、製造元に3割、両親に7割の責任があったと認定している。その誤解が判決あるいは両親への批判的な気持ちを強めている可能性もある。
以上が、今回の事故・裁判における「ネット上の世論」の概観だ。
さて、裁判員裁判がもうすぐ始まろうとしている。裁判員制度導入の理由の一つに「国民の健全な常識を司法に取り入れる」というものがあるが、では「国民の健全な常識」とは何か。
今回は民事事件であるが、裁判官と一般市民との考え方の違いが浮き彫りになったと思う。これからも、裁判官と一般市民との感覚の違いを示す事件があれば紹介しようと思う。