毎日新聞が運営するニュースサイト「毎日jp」で、呼出状を忘れた裁判員候補者が不出頭扱いになり、刑事罰の対象になる可能性があるとする記事が配信された。

 以下、問題となった記事を引用する。

 『甲府地裁(渡辺康裁判長)で20日に始まった山梨県初の裁判員裁判で、裁判員候補者とみられる女性が呼び出し状を忘れて不出頭扱いになった。裁判所の判断によるが、刑事罰の対象になる可能性もある。甲府地裁は「通常はあり得ない事態」と話している。』
http://mainichi.jp/select/jiken/saibanin/news/20091020k0000e040067000c.html、2009年10月20日配信)

 結論から言えば、この記事は誤りだ。以下、関係条文を引用する。

裁判員法第112条
次の各号のいずれかに当たる場合には、裁判所は、決定で、十万円以下の過料に処する。
一  呼出しを受けた裁判員候補者が、第二十九条第一項(第三十八条第二項(第四十六条第二項において準用する場合を含む。)、第四十七条第二項及び第九十二条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、正当な理由がなく出頭しないとき。

まず、裁判員候補者が出頭しない場合の制裁は「過料」であり、これは刑事罰ではなく行政罰だ。
 また、そもそも、呼び出し状を忘れた女性は裁判所に出頭している。裁判員法第112条は若干長くて読みにくい文章だが、必要な部分を抜き出せば「呼出しを受けた裁判員候補が、正当な理由がなく出頭しないときに、裁判所は、決定で、十万円以下の過料に処する。」となる。地裁が内部的に不出頭として扱うことはあっても、実際に裁判所に出頭した候補者を過料に処すことを正当化する法律は存在しない。

 記事では後者について「裁判所の判断によるが」「可能性もある」など曖昧な表現を使っているが、呼び出し状を忘れると刑事罰を受けるのだと誤解する人も多いだろう。

 そして、この記事に反応して、裁判員制度そのものを批判するブログ記事やmixiなどでの投稿が多数存在している。その一つを紹介しよう。

『好きで裁判員になるわけではない。義務としてさせられるわけです。そしてそんな裁判員候補者が、裁判員を選ぶ日に出頭して、呼び出し状を忘れたら、「不出頭」扱いになるだけでなくて、刑事罰にまで問われるという。こんな滅茶苦茶あるでしょうか。』『皆さん、他人事ではありません。いつ、皆さんが、一方的に裁判員に選らばれて、呼び出し状を忘れただけで、逆に前科者にさせられてしまうかもしれないのです。こんなひどい制度、一刻もはやくなくしましょう!』
http://blogs.yahoo.co.jp/struggleunioncenter/31273945.html 閲覧日2009.10.22)


 このように、毎日新聞の記事によって裁判員制度を誤解する人が増え、制度に対する国民の反感はさらに高くなった。せめて、裁判関係の記事を書く部署にはある程度法律を知っている記者を配置してもらいたいものだ。