「フルメタル・パニック!せまるニック・オブ・タイム」が発売され、シリーズ完結まで残すところあとわずかとなった。ここれ、今までの話を振り返りながら、書評も兼ねていろいろと書き連ねていこうと思う。
 なるべく楽しみを奪うようなネタバレは避けるつもりだが、どうしてもストーリーに言及することになるので、注意して頂きたい。



 シリーズ開始は平成10年。物語上の時代もだいたいそのくらいだろう。ジャンルを定めるとすれば、学園ミリタリーラブコメといったところか。
 物語上の世界ではソ連は崩壊せず、中国は南北に分裂し、冷戦も終わっていない。また、AS(アーム・スレイブ)という巨大人型戦闘ロボットが開発され、陸戦で活躍している。
 主人公、相良宋介は幼いころ、乗っていた飛行機が北極の氷上に不時着し、ソ連軍に救助されたが暗殺者として育てられ、いろいろあって傭兵AS乗りとして各地を転々とし、秘密軍事組織ミスリルに入隊した。(詳しくは「極北からの声」で)
 ミスリルとは、冷戦が続き3度目の核兵器が使用されたことをきっかけに、「可能な限りの平和」を目指し、世界各地の武力紛争の火消し役をつとめる傭兵集団である。
 宋介はミスリルの任務で、都立陣代高校2年生千鳥かなめを護衛するために、その高校に転入することになった。千鳥はウィスパードという能力の持ち主で、未知の技術(ブラック・テクノロジー)を持っている。このような人物は世界に数十人存在し、アマルガムなどの組織に狙われている。そういうわけでミスリルが護衛することになった。
 そして、時には千鳥が敵に狙われ宋介が彼女を守るために戦ったり、またある時には幼いころから戦争付けの宋介が下駄箱に入れられたラブレターを爆弾と勘違いして爆破するなど戦争ボケっぷりを発揮し、千鳥、テッサ(16歳の女の子にしてミスリル西太平洋戦隊司令官、ウィスパード)の宋介をめぐる三角関係にやきもきさせられながら、物語は進行していく。
 基本的に、敵と戦うまじめな話は長編(「戦うボーイ・ミーツ・ガール」など動詞+英単語3つのタイトル名)、ラブコメな話は短編(「放っておけない一匹狼?」など漢数字が入り?で終わるタイトル名)に収録されている。長編で泣いて短編で笑うというのが一般的な読み方だ。


 そんな感じで、いろいろ事件に巻き込まれながらも何とか千鳥は高校に通い、宋介は高校生と傭兵を兼業するという日々が続いたが、ついに、千鳥はアマルガムに捕らえられてしまう。(「燃えるワン・マン・フォース」)ミスリルも総攻撃を受けて壊滅状態になり宋介は手がかりを探すために東南アジアのある国に行き、いろいろあって、うまく逃げたミスリル西太平洋戦隊と合流し、もうすこしで千鳥と感動の再開を果たすというところで信じられない展開に…(「せまるニック・オブ・タイム」)




 さて、これからどうなるだろうか。私としては、もう一度、大貫善治や会長閣下に活躍してもらいたいのだが。林水会長は「つづくオン・マイ・オウン」で宋介と千鳥のことを気づいたし、生徒の避難に協力したから、ひょっとしたらもう一度重要なシーンで登場するかもしれない。
 千鳥も、このあとどうなるだろう。本格的にレナード側に付いたことでひとまず安全な状況にいるようにも思えるし、そのレナードも敵になるとは考えにくい。宋介とカリーニンの出会いからこれまでの経緯を見て、この2人の関係は絶対のものだと信じたいし、カリーニンがほいほい裏切りを繰り返すとも思えない。普通に考えれば、千鳥が考えを改めて宋介・テッサ陣営に戻り、ミスリル対レナードの決戦になるのがオーソドックスな展開だが、私は、最終的には宋介・テッサ・千鳥・レナード・カリーニンの意見は一致するのではないかと予想している。

 それと、話は少し変わるが、このシリーズ全体を読んで、その裏側にある背景というか、著者の心情というものを最近私は感じるようになった。
 この小説に込められたものは、戦争とそれに対する日本社会・政府の無警戒さへの嫌気ではないだろうか。
 「揺れるイントゥ・ザ・ブルー」で、貧しい島国に置かれた米軍の科学処理工場がテロリストに襲撃されミスリルが対処するという話で、宋介の心情が次のように描かれている。「どこでも同じだな、と思った。貧しい国や地域が、いつも貧乏くじを引く。軍事基地、廃棄物処理場、原発。場合によっては、武力紛争というおまけがつくこともある。」(P.140)
 また、短編では、宋介の戦争ボケが注目されるが、逆に長編では日本人の平和ボケが描かれている。国内で戦闘が起きているのに、省庁間の縄張り争い、といった具合だ。平和を知らない戦争ボケの宋介と、平和に浸かり続け戦争を忘れた日本のコントラストには、少し考えさせられるものがある。