北朝鮮の核計画申告を受けてアメリカはテロ支援国家指定を解除しようとしている。テロ支援国家に指定された北朝鮮はアメリカから経済制裁を受けているが、その指定が解除されれば、北朝鮮は外国や世界銀行などから経済援助・融資を受けることが容易になる。

ブッシュ大統領は拉致問題を「忘れない」と言っている。しかし、彼の記憶の片隅に拉致問題が残ったとしても、アメリカが北朝鮮経済を潤すようなことをすれば、北朝鮮は日本との国交正常化、そのための拉致被害者返還を行なうメリットが薄れる。重要な国家機密が漏れるリスクを犯して拉致被害者を返し、日本から見返りを受けなくても、アメリカなどからの援助で体制を存続できるなら、金正日はそれを選ぶだろう。

アメリカと日本は60年以上の同盟関係にある。しかし、アメリカにとって北朝鮮の核保有やイランなどへの核技術移転は大きな脅威だ。友好国の十数名の命のために自国民への脅威を放置することは簡単にはできない。しかも、その友好国は同盟関係とは言っても戦争になった時に一緒に戦ってくれるわけでもなく、自国に向けられた弾道ミサイルの撃墜すらやってくれるかどうかさえ怪しい。他にも、政治日程の都合で北朝鮮との交渉を長引かせることは都合が悪いなどの事情がある。何より、肝心の被害を受けた国の政府は細々と経済制裁をやっている程度で自国民を助けようという気概を感じられず、アメリカ任せで済ませようとしている。それでも、その友好国の国民数十人を救うために北朝鮮の核問題解決を諦めると国民に説明できるだろうか。(もっとも、今回の北朝鮮の申告が上記の懸念を払拭するものであるかどうかには大いに疑問を感じているが)

今回のアメリカの対応を見て、アメリカへの不信感を感じる日本人は多いだろう。しかし、私が憂うのはアメリカのテロ支援国家指定解除ではない。それよりも、日本政府の、日本国民の考え方の方がはるかに心配だ。

日本では拉致問題を受けて、北朝鮮への経済制裁の是非をめぐって議論が交わされた。経済制裁をやるかやらないか、どの程度にするか。しかし、「経済制裁で済ませてよいのか」という議論はほとんど聞かない。自国民が何十人も連れ去られて再三帰国を要求しても返す見込みがないとなれば、外国なら戦争になってもおかしくない。それなのに、日本では武力による奪還を唱える者はほとんどいない。

日本には憲法9条があるからだろうか、戦争という選択肢は発想の中に入っていない。武力で拉致被害者を返せと威嚇したら、「護憲派」「平和主義者」は大騒ぎだろう。

だからこそ、北朝鮮は(それに韓国・中国、ロシア、台湾も含めて)日本に対しては安心して主権を侵害することができる。事なかれ主義の政府に独立の気概を失った国民が相手だ。何をやっても戦争になることを心配する必要がない。なぜなら、日本は憲法9条を頂く平和国家だからだ。

平和国家日本は自力では連れ去られた国民を救い出すことができない。だからアメリカに頼んで何とかしてもらおうとするが、アメリカとて自国に飛んでくるミサイルを無視するような国のためにリスクを冒そうとは考えないだろう。北朝鮮に油田があれば話は別だが、そのような話は出ていない。

9条平和主義はこれからも多くの犠牲を出すだろう。しかし、それが「平和」につながるわけではない。竹島の住民が韓国軍に殺され、自称「境界線」を越えた漁師がロシア国境警備艇に撃ち殺され、北朝鮮には国民が連れ去られ、領土も奪われて、それを「平和」と呼べるだろうか。

憲法9条がある限り、拉致被害者の帰国は絶望的である。