京都地裁に傍聴に行って来ました。もうすぐ京都でも裁判員裁判が始まるので、重大事件の第一審では裁判官だけの裁判はもう見納めだと思い、今のうちにと殺人事件とかないかと思って行ってきました。

 裁判所到着は11時。殺人は無かったが、死体遺棄・保護責任者致死事件がある。たぶん、裁判員対象となる事件だ。時間は10時から16時までとかなりの長丁場。裁判員裁判を見越しての集中心理だろうか。

 法廷に入るとすでに審理は始めっていた。女性が弁護士から質問を受けてる。
 ちなみに、この事件の被告人は藤澤真由美。調べたところ、朝日新聞が報道していた。


乳児の遺体、自宅に放置容疑で両親逮捕 京都府警
http://www.asahi.com/national/update/1102/OSK200811010137.html
朝日新聞2008年11月1日配信

 京都府警五条署は1日、死亡した乳児の遺体を自宅内に放置していたとして、母親の無職藤沢真由美容疑者(30)=京都市中京区新町通錦小路下ル小結棚町=と、父親の会社員長谷章宏容疑者(47)=同=を死体遺棄容疑で逮捕したと発表した。

 調べでは、両容疑者は4月に生まれた男児がその後死亡したのに、死亡届などを出さず、自宅のマンション室内などに遺体を放置した疑いが持たれている。司法解剖の結果、男児は5月に死亡したとみられる。

 同署によると、藤沢容疑者は出生届を出さないなど言動に不審な点が多く、市の児童相談所職員が再三接触を試みたが、うまくいかなかったという。10月31日に同所職員と警察官が自宅に立ち入ったところ、室内で男児の遺体を見つけたという。藤沢容疑者は「母乳を次第に飲まなくなって亡くなった」「死んだとは思っていない」などと話しているという。



 途中から入ったので何が議論されているのかよく分からなかったが、聞いていくうちに、母親が生まれたばかりの赤ん坊の具合が悪いのに病院に連れて行かず、その赤ん坊は「一般的な意味で」死亡した。死後は届けを出さず、マンションに放置していた。
 弁護士が質問する時に言っていた「一般的な意味で死亡」って何かな。ひょっとして、変な宗教にハマっていて、その信仰に従う被告人は「まだ生きている」と主張しているのかな。以前、そんな事件があったな。そんな事を予想しており、それはおおむね正解だった。

 被告人によれば、この世には悪霊がたくさんいるらしい。特に京都は歴史が古く、魑魅魍魎の世界だそうだ。その霊はかつて被告人の母を利用し、被告人をいじめていたという。妊娠が分かり、一応、被告人は病院に行こうとしたらしい。しかし、それは赤ちゃんの健康のためではなく、「この世界」ではそれが普通・ルールだからだという。被告人の認識によれば、赤ちゃんは健康に生まれてくるのが当然であり、もともと病院に行く必要性は無いと思っている。
 しかし、京都には魑魅魍魎が蔓延っている。その霊は被告人を攻撃するのだ。他人に助けてもらおうにも、「霊の世界」を理解している人しか助けることは出来ない。夫は「霊の世界」を理解しているが、被告人とその子供に襲い掛かる悪霊どもと戦っている最中なので、助けを求めることは出来ない。

 そして、大した準備をすることなく破水し、救急車で京都第二赤十字病院に搬送される。

 退院後はミルクを1日50ccくらいを与えていたらしい。これが多いのか少ないのかは分からなかったが、こちらのサイトによれば80〜100ccが適正だそうだ。もっとも、個人差はあるだろうし、50ccでゲップしたと言っているからこの子に関してはこれが適正かもしれない。
 被告人の認識によれば、子供の成長にとってミルクは大して重要ではなく、「この世界」ではそうなっているから、という理由で飲ませていたらしい。宗教なのか何なのかよく分からないが、「この世界」の常識を拒絶するほどの過激思想でないのが救いだ。

 ところが、生後1ヶ月くらいで具合が悪くなり、ミルクを飲まなくなる。これは霊が子供を攻撃しているからであり、子供が泣くのは霊と戦っている証拠だそうだ。病院には行かなかった。霊の攻撃により被告人は動けないし、そもそも「霊の世界」を分かっていない医師が形式的な治療をし体をいじり回したらかえって悪化するからだ。そんなわけで子供は死亡。

 しかし、被告人とその夫は火葬には否定的だ。火葬は腐敗する人間の醜い姿を見なくて済むためのものであり、愛する子供にそんなことしたくなかったらしい。それでマンションに置いていたのだが、見つかって逮捕。

 審理では、被告人の考える「霊の世界」についての細かい質問が中心だった。「病院に行ったら悪化すると考えているのに何故出産時には病院に行ったのか」など。検察官も裁判官も真剣にそれを聞いている。

 理由はよく分からないが、おそらく、被告人が「霊の世界」を本気で妄想しているのか、あるいは責任逃れでそのような世界観をでっち上げているのかを見極めているのだと思う。本気の妄想なら、被告人は病院に行かせる必要が無いと思ったから病院に連れて行かなかったのであり、たぶん、保護責任者遺棄致死罪は成立しなくなる。でも、客観的に考えると病院に行かせることは必要であり、その判断を誤ったことについて過失があるから過失致死罪が成立する。保護責任者遺棄致死に比べ過失致死ははるかに刑が軽い。←このへんはちょっと自信無い。


 この裁判は5時間かけて傍聴して正解だったな。