つぶや記

京都で大学生をやっている松岡智之です。 新聞記事に突っ込んだり、読んだ本の感想なんかを徒然なるままに執筆します。

時効

公訴時効廃止、冤罪増えないか心配

 殺人罪などの公訴時効を撤廃する刑事訴訟法改正案が参議院で可決された。

 刑事事件における時効の存在理由は大きく分けて3つあると考えられている。

(1)実体法説
犯罪を犯しても、ある程度時間がたったら被害者・社会の処罰感情が薄れる。また、犯人も長い間捕まることに怯えながら過ごした。だから、処罰する必要がなくなる。もう昔の事だから水に流そうや、ということ。

(2)訴訟法説
犯罪発生から長期間経過すると証拠が散逸し、適正な審理ができない。50年前の殺人事件の疑いをかけられて今さらアリバイを証明するなんて無理な話でしょ?ってこと。

(3)新訴訟法説
殺人犯でも長期間逮捕されずに過ごしたことによって築き上げた人間関係や地位などを尊重し、法的安定性を図るべき。


 私としては、(1)実体法説、(3)新訴訟法説は「ふざけるな」と言いたい。実体法説についてだが、ある人物が殺されて20年経過したら、事件と無関係な一般人は事件そのものを忘れてしまうだろう。しかし、遺族はどうだ?昔の事だから水に流そうと考えてくれるだろうか。大根泥棒ならそれで済むだろうが、家族を殺されてそこまで寛大になれる人は少ないだろう。長期間、捕まることを恐れながら暮らしたことが刑罰の代わりになるって話も理解できない。殺人の場合、悪質ならば死刑もあり得る。それだけの罪を20年間の逃亡生活で「償った」と考えることは出来ない。
 新訴訟法説についても、例えば何十年も前に万引きをして、その時は警察から厳重注意を受けただけで済んだけど、今さら起訴されて有罪判決を受けるのは気の毒だ、という話なら理解できる。しかし、自分の意思で逃げ続け、「今さら捕まえるなんてあんまりだ」という主張には耳を貸せない。

 (2)訴訟法説についても、検察視点で考えれば、時が経つにつれて立証は難しくなるが、DNA鑑定などによって大昔の犯罪でもある程度立証できるようになった。期間で区切らず、立証できるかどうかで有罪無罪を判断すればよいと言えるだろう。
 しかし、被告人の立場で考えると、何十年も前に自分が犯罪を犯していない証拠、あるいは、検察の主張に反論できるだけの根拠を見つけることは困難だ。刑事裁判において立証義務を負うのは被告人ではなく検察官だ、というのはもはや建前に過ぎない。わずかに発生している無罪判決は被告人・弁護人の必死な立証活動によるものだ。冤罪を防ぐためにも、ある程度の期間で区切って、それ以降の起訴はできない制度は必要ではなかろうか。



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時効撤廃が参院可決 月内にも成立、来月施行へ
2010.4.14 10:28
 参院本会議は14日午前、殺人罪などの公訴時効の撤廃を盛り込んだ刑法と刑事訴訟法の改正案を、与党と自民、公明両党などの賛成多数で可決した。参院先議の同改正案は衆院に送付されて16日に審議入りし、早ければ今月中に可決、成立し、5月の大型連休明けにも施行される見通しとなった。

 同改正案は、強盗殺人や殺人など最高刑が死刑に当たる犯罪に時効(現行25年)を撤廃する。また、最高刑が無期懲役・禁固の強姦致死罪などは現行15年を2倍の30年に、有期刑の上限である20年の懲役・禁固の傷害致死罪などは10年を20年にそれぞれ延長される。

 改正法施行時に時効が成立していない過去に未解決事件にも、時効廃止や期間延長が適用される。

 これまでの審議の中では、捜査の長期化や事件発生から長い時間を経ることで、証拠の散逸や記憶が不確かな状態での関係者証言など、冤罪(えんざい)を生みかねない状況への懸念が指摘された。

 同改正案は犯罪被害者の遺族感情に配慮し、旧自公政権時代に法務省がまとめた内容に沿っている。民主党内は、事件ごとに判断して時効を中断する案を昨年の衆院選前の政策集に掲げており、党内には今回の改正案には疑問の声も残っている。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100414/plc1004141031009-n1.htm

時効成立認めず

殺害行為への賠償責任認める…東京・足立の時効殺人訴訟
 1978年に東京都足立区立小の女性教諭・石川千佳子さん(当時29歳)を殺害して自宅の床下に埋め、殺人罪の時効成立後の2004年に自首した元警備員の男(71)に対し、遺族が損害賠償を求めていた訴訟の控訴審判決が31日、東京高裁であった。

 青柳馨裁判長は「民法上の時効を適用するのは著しく正義・公平の理念に反する」と述べ、殺害行為に対する賠償責任を認めた。その上で、男が遺体を隠し続けた行為に限って330万円の賠償を命じた1審・東京地裁判決を変更し、約4255万円の支払いを命じた。

(2008年1月31日16時00分 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080131-OYT1T00456.htm?from=main4



 この事件は、20年以上前の殺人事件の加害者に被害者が損害賠償を求めたが、加害者側は時効を主張し、時効成立を認めるかどうかが争点となった。
 第一審では、20年以上前の殺人による賠償は認めず、提訴の20年前から自首するまでの期間遺体を隠していたことについてのみ損害賠償を認めた。遺体はつい最近まで隠していたので時効にはならないから、遺体を隠して遺族に苦痛を与えたことの損害賠償は認めたが、殺したことへの損害賠償は認めなかったのである。だから、賠償金も330万円と安い。
 しかし、第二審では、殺人についても損害賠償を認めたのである。


第724条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。



 たとえば、家族を殺されたなどの被害を受けたとき、その人が殺されたこと、つまり「損害」を知り、かつ、加害者が誰かを知った(これで裁判ができる)時から3年以内に裁判を起こしたり、加害者がと賠償額について話し合うなどしないと時効が成立する。つまり、3年も放っておいたらもう裁判所は助けませんよ、ということだ。

 さらに、殺人が発生してから、つまり、不法行為の時から20年たったら、その間誰が犯人かわからなくても、裁判所は助けませんよ、とも定められている。(これは除籍期間と呼ばれる)


 もっとも、特別な事情があれば、例外は認められる。

ウィキペディア「除籍期間」より引用

2004年(平成16年)4月27日最高裁第三小法廷判決、民集58巻4号1032頁 三井鉱山じん肺訴訟
民法724条後段所定の除斥期間は,不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時から進行する。

2004年(平成16年)10月15日最高裁第二小法廷判決、民集58巻7号1882頁 関西水俣病訴訟
水俣病による健康被害につき,患者が水俣湾周辺地域から転居した時点が加害行為の終了時であること,水俣病患者の中には潜伏期間のあるいわゆる遅発性水俣病が存在すること,遅発性水俣病の患者においては水俣病の原因となる魚介類の摂取を中止してから4年以内にその症状が客観的に現れることなど判示の事情の下では,上記転居から4年を経過した時が724条後段所定の除斥期間の起算点

2006年(平成18年)6月16日最高裁第二小法廷判決、民集60巻5号1997頁 北海道B型肝炎訴訟
 乳幼児期に受けた集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染しB型肝炎を発症したことによる損害につき、B型肝炎を発症した時が724条後段所定の除斥期間の起算点となるとされた事例



 このような特殊事情があれば、裁判官は法律を曲げてでも被害者を救済してきた。
 しかし、今回の事件は単なる殺人事件だ。不謹慎な発言だが、日本でもよくあることである。このような事例にまで時効(除籍期間)の例外を認めたとは驚きだ。


 最高裁までいくだろうか。だとしたら、最高裁はどう判断するだろうか。
 今後のこの事件の動向が気になる。




他の方の意見とそれに対するコメント


毒物混入餃子と時効殺人で賠償命令

 この方は、時効成立を認めない第二審判決に肯定的だ。なるほど。確かに、遺体を隠し続けて20年経てば賠償責任から解放される、というのは、確かにどうかと思う。心情的には私も同じ思いだ。
 しかし、除斥期間20年を定めた条文(724条)を見る限り、不法行為がバレずに20年経ったらもう時効ですよと正面から言っているように思える。
 それに、今回はたまたま被告が自分の不法行為を認めたからいいが、もし事実関係に争いがある場合、つまり、被告が「俺は殺していない」と主張した時、その主張が真実だったとして、訴えられた側はたまったもんじゃないだろう。去年の事なら自分の行為についていろいろ反論できるし、証拠もまだあるだろうけど、普通20年も昔の事なんてはっきりと覚えていないだろうし、証拠も消失する可能性が高い。こうなると、訴えた側が証拠を捏造しても、それに対する反論が困難になる。これを防ぐために、20年以上昔の事件は裁判所は扱いませんよ、という原則(除斥期間)があるのだ。その例外をこの事件に適用していいものだろうか。
 この事件については被告に責任をとってもらいたい、賠償金を払わせたいという思いと、こんなに安易に除斥期間の例外を認めると法的安定性が損なわれるのではないかという危惧。これは、どちらも説得力がある論理だ。
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