6月25日、偽りの投資話で2200万円をだまし取った事件の損害賠償請求訴訟で、最高裁は加害者が被害者に払った配当金200万円を被害額から差し引くべきではないとする判決を下した。

被害者は2200万円を払い、配当金として200万円を受け取ったから、実質的な損害額は2000万円である。

しかし、「反倫理的行為により損害を受けた一方で利益も得た場合には、この利益を損害賠償請求における損害額から差し引くことは許されない」とする6月10日の五菱会闇金融事件最高裁判決を引用し、配当金を損害額から差し引いた二審判決を破棄した。

このような考え方は被害者保護のためにマイナスに働くだろう。
投資詐欺やマルチ商法などでは、早いうちに加入した(引っかかった)者は多くの利益を得て、事業が破綻寸前に加入した者は配当金を得られず大損することが多い。それを考慮せずに払った金額を損害額として認定すれば、被害者間に有利不利が生まれる。なぜなら、加害者は受け取った金を配当金やその他に使っており、被害金額のすべてを賠償できないことが多いからだ。払った金のすべてを賠償金として得ることができないのに、配当金の多い少ないに関わらず払った金額に比例して賠償金を得ることになれば、最初に加入して多くの配当金を得た者に有利になり、ほとんど配当金を受け取っていない者に不利になる。
例えば、100万円の投資詐欺に引っかかった人が3人いたとしよう。1人目の被害者は2人目、3人目が払ったお金から配当金を100万円受け、2人目は50万円、3人目は10万円の配当金しかもらえなかったとする。実質的な損害額は1人目0円、2人目50万円、3人目90万円となる。今回の判決に従えば、この3人が裁判を起こせば、加害者からそれぞれ100万円ずつ、合計300万円取れることになる。しかし、加害者はすでに160万円を配当として払っており、他にもいろいろお金を使っていて、加害者の手元には90万円相当の資産しかないとしよう。そうすると、被害者は賠償金300万円の判決を得ても実際には90万円しか受け取ることができず、それを3等分して一人当たり30万円を得ることができる。すでに受け取った配当金を合わせれば、1人目は30万円の利益、2人目は20万円の損失、3人目は60万円の損失となる。このような賠償金の分配は不公平だ。実質的な損害額に比例し、全く損をしていない1人目は0円、50万円損をした2人目は32万1428円、90万円損をした3人目は57万8571円の賠償金を得るとしたほうが公平だ。

今回の判決は一見すると被害者に有利なように見える。しかし、裁判で認められた賠償額を全額得ることが困難であるという現実を考えると、配当金を損害額から差し引かないとする今回の最高裁判決は被害者間に不平等な状態を生み出し、不当であると私は考える。


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